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2017年1月5日(木)に愛知教育大学学術情報リポジトリは正式公開8周年を迎えることができました。また、同年3月に登録件数6,000件を突破しました。日頃より,リポジトリをご支援くださっている皆様に心より御礼申し上げます。正式公開8周年記念として,著者名検索論文数が最多(58件)である教職実践講座教授の佐藤洋一先生にインタビューを行いました。



↑佐藤先生


佐藤先生プロフィールは
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研究者総覧(日本語)


高校生のための研究紹介
(教職実践講座)





↑インタビューの様子です

佐藤先生インタビュー  2017年6月23日(金)
                      於:佐藤研究室

■ 研究分野について

インタビュアー: 研究者総覧には,言語技術教育,授業研究,学力・評価論などが記載されていますが,先生の研究分野について教えてください。

佐藤先生:  本学には,国語科教育学と日本近代文学での公募審査を受けて着任しました。当時の国語教育講座の採用条件の一つは,国語科教科教育学の実績だけでなく, 専門研究の学術的な研究業績があることでした。私は,近現代文学研究ができ,国語科教育もできる教員ということで採用していただきました。

 講師・助教授時代は,近現代文学の論文も発表してきたのですが,実践的な国語科授業研究とか学力・評価論など,教育現場の期待といいますか,現場の先 生が本学に求めていることに関して具体的に応えるような理論や実践提案,授業・評価・指導モデル的なことを研究していくことで,先生方や教育委員会等に 貢献できるのではとの思いが強くなっていきました。

 2008年新設の教職大学院に専任教授として移籍しました。これからの教職大学院が求めるカリキュラムの一つに教科を超えた汎用的な授業研究論・評価論, 教育課程研究があり,その基盤には国語科言語能力研究を基軸にした言語コミュニケーション能力,論理的文章研究,文学研究理論,専門的な情報リテラシー 教育等が不可欠と・・・まあ,勝手に考えてのことでした。そんないろいろな経緯があります。

 なお,国語科教育講座の頃から細々と続けてきた教え子たちとの研究会があり,現在,「21世紀型教育研究会」の活動では,会長を務めています。

■ 21世紀型教育について

インタビュアー: 21世紀型教育とは,どのようなものでしょうか。

佐藤先生:  国語科研究会と銘打っていないのは,「資質・能力論」からの各教科や道徳研究,その他を視野に入れているということ,これまでの教育研究の課題を突破 する戦略と視点,方法を強調するためです。

 例えば,大学入試が約40年ぶりに変わります。いわゆる,質的に高い学びを評価する論述表現型,特に考えの形成と深化,その妥当性と価値,創造性・批 評性とかを測ることを中心にしたものになることが決まっています。それに伴って高校教育の構造が変わります。愛知県では,すでに今年の3月の高校入試が 変わり,論述型の問いが入りました。入試改革もそうですが,世界的な教育動向の中で,知識や技術を暗記し応用できる・書ける・まとめられるだけのIQ認 知スキル・記憶力型の秀才育成にはいろいろな課題があることが前提になっています。

 次世代型・21世型教育というのは,知識・技能を「主体的に判断し,効果的に活用する資質・能力」,「未知の課題に対応できる思考力・判断力・表現力 等」,「人間性や態度,価値ある課題解決能力につながる批評的・創造的な能力」,「イノベーション型・革新的なクリエイティブな力」の育成がゴールとし て重要だということです。これは日本だけではなく,世界的な動向で,1995年代にはアメリカのサンディエゴ大学で「21世紀型スキル」が出されていま す。オーストラリアやイギリス・フランス・ドイツ等西欧でも提示されてきています。OECDは,これらを整理・統合し,次世代型の教育のあり方を今まさ に模索しています。

 今回の学習指導要領では完全にそこまではいっていないのですが,文科省は,その先を見据えて東京学芸大学と東京大学に指定し,「2030年の教育」と いうプロジェクトを進めています。これは,2030年以降を見据えた新しい教育の在り方・評価の観点の試行的な実践的研究です。

 ポイントは3つあります。まずは,「知識・技能」です。2つめは「活用」にあたる教科を超えた「汎用的なスキル」です。これには,情報リテラシーやコ ミュニケーション能力,課題解決能力など企業や社会で必ず必要となる「社会的スキル」と言葉で理解する,学び方をどうやって学んでいくかという「認知ス キル」の2つがあります。これまでは,各教科を学び,後はその延長線上だったのですが,教科を超えて社会に役立つものの見方や考え方や能力を前面に出し ていることが重要です。もう一つは,学びを通じた「人間的な態度と価値判断力・行動」の育成,現在の学習指導要領でいうと「人間性に向かう学び」になり ます。次世代型の教育の観点から言うと,知識を得て,それらを汎用的スキル化できるところまではいいのですが,高度な知的な能力と行動を伴った責任ある 判断,洞察,社会の中での公的組織的な態度形成とかにつながらない教育だと本当の意味の「資質能力」の育成にならないということです。多様な情報への正 しい判断・評価する力,自分の生き方や社会に展望を持つことの基盤の教育が必要になってきています。例えば,主権者教育や伝統的な言語文化,地理歴史教 育,言語教育などがそれにつながります。

 2017年3月末,学習指導要領が72年ぶりに改訂され,2020年からは,小中学校が新指導要領よる教育完全,中学・高校教育の在り方,高校入試・大 学入試も変わっていきますね。

インタビュアー: 新しい時代に向かっていくんですね。

佐藤先生:  時代が大きく変わっていく中で,学術団体や研究学会,研究者たちは,今まで持っていたノウハウや学問的蓄積だけで「何とかなるところ」と「なんともな らない,展望が持てない,提案が示せない」ところの落差が非常に大きくなっているように感じています。多くの研究学会・研究会が新しい提案やビジョンを 出せないでいるとの印象を持っています。「資質・能力」育成,「深い,質的に高度な学び」をどう創るのか,「学びに向かう人間性」や汎用的スキル・・・。 理論的な解説はできるのでいいのですが,では,実際に小学5年生の理科や国語では,中2の社会や家庭科・美術科ではどうなるかと。

 「不易と流行」という言葉があります。変わってはいけないものももちろんありますが,時代と子どもたちを取り巻く環境が大きく変わり,未来も変わって いく・・・。先生方は学習指導要領に沿って検定教科書を使って授業をやらなければならない。しかも,仕事が多く多忙な状況がある。そこに関わり,少しで も役に立つことができればと考えています。

 私の教育・研究活動の一番の根っこにあるのは,課題や問題のある子どもたちにこそ,「言葉を学ぶ震えるような楽しさと深さ」,「学校に来る喜び,おもし ろさ」,「誇りを持ち前を見て生きていく勇気」を支援してあげたいということです。もちろん出来る子どもたちを伸ばすのも大事なんですけどね。


■ 研究を始めたきっかけについて

インタビュアー: 研究を始めたきっかけを教えてください。

佐藤先生:  学部の卒業論文の投稿が全国的な学会誌の審査をパスし掲載されたことがきっかけです。「日本近代文学」に学部学生の卒論が掲載されるということは当時は 異例でした。指導教官の御指導のおかげだったでしょう。今でも感謝しています。

 その後,別の学会誌や研究書執筆,全国的なシンポジウム登壇,研究会への誘いもあり,おもしろくなってきたんですよね。萩原朔太郎詩の研究から,中原中 也,谷川俊太郎,大岡昇平,安岡章太郎等へ研究範囲を広げていきました。萩原朔太郎のような難解で不可解な詩に「立体的な時空間,構造的な法則性・秘密」 があるという論文はこれまでなかったので評価されたんでしょうね。自分で詩や小説を書いていたので好きなことの延長でした。

 文学研究や批評理論研究を通して,自分の生きている時空間とは異なる「もう一つの人生・他者」に出会える深い喜び,また読み解き批評する愉しさに憑かれ てしまったようでした。そんなことを活かして小中高校で楽しく教えることができたらと調べ直してみると,私がやってきたような専門研究を活かした指導プロ グラムとか評価観というものが極めて少ないことに気づいたんです。文学研究は文学の先生だけで,教育研究は教育の先生だけが多くて,両者の研究背景や先行 研究を批評的にとらえ,かつ学習指導要領や教育学研究者の課題・問題点をも踏まえた実践提案とか,子どもたちの指導プログラムや指導案レベルまで降りると いったことが少なかったようです。

■ 本学での教育・研究について

佐藤先生:  千葉県で高校教師をやりながら,東京女子大と実践女子大で近現代文学・詩歌研究会に参加させていただき,研究的なことの奥深さを知りさらに楽しくなって いきました。一方で,高校教師としては授業がうまくできない,納得できないというジレンマがあり,教育研究の専門学会や全国の附属小中・高校公開研究会に 参加,教育論文執筆も継続していました。その後,本学の教授だった甲斐睦郎先生から「愛知教育大学に来ないか」と声をかけていただきました。

 高校教師時代の10年間は,生徒たちと先生方・保護者の方々にも恵まれ,本当に楽しい日々を送りました。大学に異動し,自分の視野の狭さや大学教師とし ての研究と教育の厳しさ・深さ,大きな組織の中での公的な役割や責任など,諸先生方や事務の方々には多々教えていただきました。

 教職大学院に移籍しストレートマスターや現職の先生方を担当して良かったことは,教育活動全体の視野の中で自分の専門性とその価値を新たに見つめ直した り,広げ深めることができたことです。国語科教育学専門の私ですが,これまで10年間で国語免許の院生や現職の先生を指導したのは,5~6人くらいでしょ うか。毎年5~7名担当するのですが,養護,保体,英語,地理歴史・日本史,社会,理科など教科で言えば他の教科の学生を多く担当してきました。私自身, 非常に幅が拡がり勉強になりました。院生に感謝しています。新しい教育理論専門や指導案の書き方や発問や指示論,評価論は専門領域ですが,違う領域の先生 方と出会え,一見遠回りなのですが,幅が拡がったと感じ,感謝しています。

 道徳の研究指定校の授業研究や家庭教育セミナーの講師として,先生方や保護者の方に教師の言語能力・リテラシーと授業力・教師力が真の「市民道徳」育成 の基盤であることや,「困難に負けない力や自分の感情をコントロールする力をつけさせるには先生方・保護者がどう関わればいいのか」,「今風の子どもたち にポイントごとに必要な要素とは」,「小学校3,4年生,中学1年後期が鍵・・・」などのお話をしてきました。これらは教職大学院での経験のおかげだと思っ ています。


■ これからの研究について

佐藤先生:  教育現場の先生方に,子どもたちのために役立つ研究,実践提案を微力ながらしていきたいと思います。遅れがちな子どもや発達課題を持つ多くの子どもたち がいて,資質・能力も含め学力差が二極化,三極化しているとか言われています。学ぶ時期とか・・・私は,いつでも新しい気持ちで,いつでも人生はやり直し がきくと考えています。できることは限られていますが,私なりに子どもたちを,先生たちを応援してあげたいなと思います。

 全国的に学術団体や研究学会・研究機関が次世代型の教育・指導システムや評価館等について,新しいビジョンや戦略・方向性が出せない,難しい状況がある と思います。現場の先生方は,国の教育施策や文科省・教育委員会やセンターの在り方,多様な特性を持つ子どもたちと限られた教育予算等の間で大変な御苦労 をされています。少しでも負担を減らし,効果的な戦略やビジョン,具体的なモデル等を提示したり,混乱した理論的言説を整理し,先生方と子どもたち,保護 者の方を安心させることができたらと願っています。


■ リポジトリについて

佐藤先生:  膨大で多面的な先行研究や文献を効率よくチェックできる学術研究の更新や提案性から,本学にとって研究・教育実践面での知的財産の蓄積になっていること, また,学生や院生にとって,これまでの学術的な成果や領域ごとの到達点を踏まえ新しい教育実践や研究を創造・批評,提案していく上で,「リポジトリ」とい うメディア媒体で身近に情報があるということは非常にすばらしいことだと思っています。

■ 新しい図書館について

佐藤先生:  大学図書館の役割や機能の面,大きな転換期かと,応援しています。

■ 最後に

佐藤先生:  子どもに教えることが好きなんですね。最近,文科省指定や研究指定校に関わることが多いのですが,小中・高校で自分で教室で授業させてもらうことが多いんです。

 小さくとも・・・世界や人間,学問の深い部分につながる感動や発見があり,あたたかな笑いとユーモアがある授業がいいですよね。教職大学院の学生の皆さん へは,教師のコミュニケーションの極意はずばり子どもたちを安心させることだと言ってます。子どもたちが何を言っても許され,認められ,自分でも気づいて いない価値ある可能性やその子らしさ,発言を引き出してもらえる,ほめてもらえる,授業のたびに成長が実感できるような授業を創ることが大事かなと。

インタビュアー: 信頼感が大事ですよね。

佐藤先生:  そのとおりです。言った言葉が,ちゃんと受け止めて返してもらえるとか,約束は必ず守るとか・・が当然ですが大事です。大学生や大学院生は,数人との人 間関係は創ることができるんですが,35~40人を集中・統率させるとか,一人一人を受け止め全体で「楽しく深い学習」を創る,しかも系統性・汎用的とい うのは人間的力量と教育の多面的な技術がいりますよね。

インタビュアー: 本日はありがとうございました。


(インタビュー)図書館運営室 電子資料係 小笠原
(まとめ・写真)図書館運営室 室長 前川



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